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Selfishly

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W`Dな男達 12


~~~ 『W‘Dな男達』 act 12 ~~~




・・・『新しい巣箱には何が詰まっているのか?
     それは巣箱の住人しか判らない』・・・



「よっし!」
エドワードは手を洗いながら、満足げな声を上げて周囲を見回した。
広々としたキッチンは、明るく清潔感が溢れている。
この広さなら、料理もし易く遣り甲斐もありそうだ。使いやすそうな広めのシンクの水気を拭き取り
エドワードは、今後の料理のレシピを考察して頬を緩める。
――― ここのオーブンなら、大き目の鳥でも丸1羽焼けるよな。
    なら、香草詰め込んで焼いてみたりも良いかも。―――
ホテルの備え付けのキッチンでは、出来る料理も限られている。
エドワードの好みから云えば、料理はどーんと大きく作って保存食を増やしておきたい。
視線を動かした先には、大型の冷蔵庫もある。しかも、冷凍庫まで付いているやつだ。
さすが高官の官舎と云ったところか。

が、この部屋をここまでにした経緯は、出来たらもう思い出したくは無い・・・。
他の部屋も当然のように酷い有様だったが、―― ここの酷さはまた格段と凄かった。
やはり食品がある部屋は恐ろしい。
冷蔵庫まで辿り着いて、扉を開ける時に要した勇気は生半可では足らず、
何度も躊躇した後に、ままよっと念じながら開けた程だ。
が、覚悟しておいて本当に良かったと思ている。
覚悟せずに開けてあの惨状を目にしたら・・・卒倒していたかも知れなかったのだから。


が、そんな涙も涸れる苦難を経て、今のこの部屋。いや、その他の部屋も今はそんな悲惨な
光景など微塵も伺わせない。完璧でパーフェクトな室内を見せている。
思ったより日数が短くて済んだのは、使用されていた部屋が1階だけで留まっていたのも大きい。
2階は家具も備え付けのもの以外置かれておらず、埃を払って磨く程度で済んだのだ。
が、1階の部屋だけでもかなりの数があるのは驚かされた。
さすが将軍クラスの官舎は広いものだ。

「良くやったよな、俺・・・――」
しみじみ呟くエドワードの瞳には、感極まったあまりに涙まで滲んできそうだ。
この拾い無法地帯を良くぞここまで。
そんな思いが胸に込上げてくる。

「さ~て。最後の仕上げ、仕上げっと」
いそいそと両手を打ち鳴らしながら、各部屋各場所の壁や床へと手を触れさせる。
明るい閃光と共に、錬成が発動していくのを満足気に見つめ、最後の錬成を終えると
エドワードは帰り支度をして、戸締りを確認してから邸を後にする。



 *****


「荷物、纏めておけよな」
突然のエドワードの言葉に、口にスプーンを運んでいたロイが怪訝そうに動きを止める。
今日の夕食は昨日のシチューにスパイスで味を変えた物を、芽の部分を削いだ蒸かしジャガイモの
丸まるをゴロゴロと皿に盛り、その上からシチューをかけて食べる料理だ。
田舎の郷土料理の定番らしいが、食べ応えが十分ある上、味付けはなかなか洗礼されている。
皮は剥いて食べるものらしいが、エドワードはその点は余り気にならないのか
皮ごと豪快に食べている。

ロイが向けた視線の先には、にんまりと笑っているエドワードの顔。
ロイは思わず持っていたスプーンを皿に戻して、エドワードの顔をじっと見ると。
「――― もしかしたら・・・、完了したのかい?」
期待を込めた問いかけに、エドワードはピースのサインを送って見せてくる。
「本当に・・・? ――― そう・・か。
 エドワード、ご苦労様。ありがとう」
ロイは心からの感謝を込めて、エドワードに礼を言う。
「おう! 感謝しておけ」
そう伝えてくるエドワードの表情も晴れやかだ。
「――― しかし・・・良くこの短期間に」
しみじみとしたロイの言葉に、エドワードは呆れた表情を返してくる。
「な~に言ってんだよ。たかが部屋の掃除に1ヶ月以上もかけなくちゃいけなくなった方が
 おかしいんだよ! これに懲りたら、こんな目に合わないように日頃からきちっとしておけよ」
「・・・・・一応、心掛けてはおく」
痛み入る言葉に殊勝な返事だけでも返しておいた。
そのロイの返事もエドワードは余りあてにはしていなかったのだろう。
「まっそんな事が出来るなら、あそこまではならないよな。
 なんで、俺がちゃんと対策を立てておいたからな」
ふっふっふっと笑い声を洩らしているエドワードの表情が得意気な様子を見せてくるから、
ロイとしては少々気にさせられるのは当然だろう。
「・・・対策? どんなものか聞いても?」
興味深そうに聞いたロイに、エドワードは「明日の楽しみに」と明かしてはくれなかった。
少しばかり残念ではあるが、それも明日の喜びに加えておく事にする。

「で、あんたの部屋は大丈夫だろうな?」
この場合の部屋とはホテルの仮部屋を指している。
「まぁここは、ホテル側が掃除してくれているから一応・・・」
「なら良いけど・・・。まさか、ベッドの下にパンツ放り込んで山盛りなんて事はないだろうな」
下着はクリーニングに出さずに自分で洗えと云っていたから、あれ以来ちゃんと洗っているのかは
確認まではせずにいたのだが。
「――― さすがに、下には・・・」
教育の行き届いているホテルだから、下に放り込んでいた物も帰ってくれば
きちんと一角に置かれている。・・・そのままの状態ではあるが。
「・・・ふ~ん。――― この際だ、溜めてんなら今日中にクリーニングに出して置けよ」
そのエドワードの言葉に、ロイのぐっと喉が詰まった。
どうやら、ロイの行動などお見通しのようだ。


だんまりを決め込んで食事を再開しているロイの様子に、エドワードは業とらしく溜息を吐く。
そのエドワードの溜息でロイの肩がビクリと跳ねるのを見止めると、やはりな・・・と確信する。
この男の生活能力の欠如は、骨の髄まで浸透しているようだ。
仕事はマメにこなしているようだが、こと自分の事になると無頓着と云うか、ものぐさと云うか。
時間が無いと云うのも確かだが、多分これは生来のものも大きいだろう。
――― 仕方ねぇな。後はきっちりと躾し直すしかない・・・―――

そんな結論に達しながら、エドワードがシチューを口に含んだ矢先に。
「そう云えば・・・、今日アルフォンス君から連絡があったようだぞ」
そのロイの一言に思わず口に含んだものを噴出しそうになる。
「ぐっ・・・・・!? ゴホッゲホッ!!」
「だ、大丈夫か!?」
咳き込むエドワードにロイが慌てて声を掛けてくるが、エドワードは胸を叩きながら
片手の平をstopのジェスチャーにして、必死になって咳を落ち着ける。
「――――― ハァー・・・死ぬかと思った」
ゴクゴクと水を流し込みながら、エドワードは眦に浮かんだ涙を拭きながら
やれやれとばかりに呟いた。

エドワードの様子が一段落したのを見てとり、ロイは話を続ける。
「君・・・まだ連絡もしてなかったのかい?」
ロイがそう聞いてみると、エドワードは罰が悪そうな表情を浮かべて言い訳を返してくる。
「いや・・・まぁ・・・。――― もうちょっと落ち着いたら、連絡しておこうとは
 思ってたんだけど・・・」
歯切れの悪い返答に、ロイが呆れたように告げる。。
「もうちょっとって。来てから1月以上も経っているのに・・・。
 連絡が付かなくなっていれば、アルフォンス君だって心配するに決まってるだろ」
「――― 判ってる」
「・・・今日は運の悪い事に私が出ていた時だったから、説明が出来ずにいたんだが。
 エドワード、先に連絡を入れておいて上げなさい。
 二人っきりの兄弟なのに連絡が取れないでは、彼の不安が増える一方だぞ」
そう諭すロイの言葉に、エドワードは渋々頷いて「食べ終わったら連絡する」と約束した。




食事の片付が終わると、エドワードがロイに風呂を勧めてくる。
どうやら電話を掛けているのを見られたり、聞かれたりするのが嫌なようだと
判断したロイは、そのまま浴室へと姿を消した。
ちゃんと掛けるだろうかとは思ったが、あれだけ云えばさすがのエドワードも
連絡をせずに済ますことはないだろうとも思う。

そう長風呂ではない方だが、久しぶりの兄弟の会話だからと、気を利かせて
心持長めに入り出てみると、エドワードの話し声が聞こえてくる。
――― まだかかりそうなら、自室にでも入っておくか。
そう思いながらリビングの間を横切ろうとすれば、エドワードの言葉が耳に入ってくる。

「だから! いいって! 俺からちゃんと伝えておくから・・・さ。
 何だよお前、兄ちゃんの言葉が信じられないのか。

 うっ・・・それを言われると・・・・・・」

どうやらアルフォンスにお灸を据えられているようだった。
言葉に困窮しているエドワードの様子を横目で見ながら、ロイは苦笑しつつ部屋の扉のノブに
手を伸ばした。

「――― なぁ、ロイ!」

背後から掛けられた声に、何事だろうかと首を振り向かせれば
不機嫌そうな表情で受話器を差し出しているエドワードが見える。

「どうした?」
そんなエドワードにそう問いかけてみれば。
「――― アルがさ。・・・あんたに一言礼を言いたいって」
仕方無さそうにそう伝えてくるエドワードに、ロイは笑みを浮かべながら受話器を受け取った。
「やぁ、久しぶりだねアルフォンス君」
『大佐・・・いえ、中将になられてましたよね、今は』
「ああ、そうなんだが。慣れてない階級は言い難いだろ?
 構わないよ、エドワードにも名前で呼んで貰う事にしてるから、君も良ければ
 名前で呼んでくれれば」
『ええっー・・・。それはちょっと遠慮しておきますね』
 苦笑交じりの返答にロイも笑って返す。
「・・・君の兄さんの事は、――― 申し訳ない・・・」
そのロイの一言で察しの良い弟は理解したのだろう。
『中将・・・――。
 良いんです、多分・・・納まる場所に戻ったんだと思いますから』
「アルフォンス君・・・」
意外な彼の返答に、ロイは少なからず驚かされた。
エドワードが軍属になった時。一番心を痛めたのは彼だろう。
漸く抜けられたと云うのに、また鎖に繋いでしまったのは自分だ。
彼には非難される覚悟でいたと云うのに。

『兄さん、一般の社会じゃ・・・ちょっと無理かなぁって。
 僕に怒られると思って隠してたんでしょうけど、僕は逆にホッとした処もあるんです。
 無理して世間で窮屈な思いして生きるより、兄さんが自分らしく生き生きして暮らせる場所の方が
 良いとも思ってるし、兄さんなら危険を回避できるとも思ってます』
「そうだろうか・・・」
アルフォンスの言葉には全面的に賛成は出来ないでいる。
『大丈夫ですよ。今度も中将が付いてくれているんだし。
 不束な兄ですが、宜しくお願いします』
「ああ、それは勿論。――― どちらかと云えば、生活面では彼に世話になりっぱなしだがね」
『意外でしょ? ああ見えても兄さん、家事全般仕込まれてますからね。
 まぁ料理はちょっと、独特の観念があるようですけど』
そう言って笑うアルフォンスにロイもつられる。
「そのようだね」

横で立っているエドワードにちらりと視線を向けて笑い声を上げると、
エドワードが嫌そうな表情をして、ハヤクオワレと声を出さすに伝えてくる。

『中将、ビシバシ兄さんをこき使ってやって下さい。
 皆さんの配慮のおかげで、住所不定の無職にならずに済んだんですから』
「そう言って貰えるなら、遠慮なく働いてもらうよ」
『ええ、宜しくお願いします』

和やかな会話は痺れを切らせたエドワードの行動で終わる。
「もう良いだろ! ――― アル、また連絡するから」
強引に受話器を取り上げると、口早にそう伝えて受話器を置いてしまう。
「・・・乱暴な」
そんなエドワードの行動にロイは呆れた表情で呟く。
「いいの! あんた、明日も早いんだから、アルフォンスに付き合って長話してるより
 さっさと寝た寝た」
しっしっと犬でも払うように手を振るエドワードに、ロイは肩を竦めて自分の部屋へと入っていく。

パタン・・・

扉を閉めて独りになると、先程の会話に少しだけ慰められた自分を感じる。
エドワードをまたしても軍属の枷に嵌めてしまった事を、ロイは自分なりに気にしていた。
が、アルフォンスが云ったセリフ。
――― 納まる場所に戻った。―――
その言葉には、酷く慰められた気がした。
今の自分の生活には、エドワードは不可欠な存在になっている。
もしふいに居なくなれば、・・・その先が想像できない程に。
仮初でも良い。今の彼の居場所がここにあるなら、ロイはそれだけでも十分な気持ちだ。
そして、少しでも長くそうあって欲しいと願っている自分に苦笑する。

「依存しすぎだな・・・」

幾許かの反省も浮かべながら、明日の為に眠ろうとベッドへと入った。


翌日、結局クリーニングに出し忘れていた物体に、エドワードからお叱りを受けることになったのは
ほんのご愛嬌となるのだった。









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